やさしい介護学

12年間の介護職体験談を思いのままに綴ります。

初めて涙した本当に悲しかった出来事!

あ~、やっと1年が経った!

 老人保健施設に介護士として働き始めて1年が経った頃のお話しです。

 何があっても1年は絶対に辞めないと心に誓っていたこともあり、2年目を迎えた時は、ようやくこの業界のスタートラインから一歩前進できたかな?という、何となくすがすがしい気持ちを抱いたことを覚えています。

 

 それはもう、毎日が、今まで見たことも聞いたこともないような体験の連続だったので、不安や困惑を抱くことの多い1年でした。

 

 心地よい緊張感?を持って過ごす日々はとても新鮮で、前向きに頑張っていたこともあり、少しづつ介護士としての基本的な知識や技術が身に付いていったように思います。

 

 その中でも、特に患者さんとのコミュニケーションは、今まで高齢者の方と接する機会がほとんどなかったので、どう接していけばよいか戸惑うことが多く、始めの頃は、先輩介護士の後ろで、背後霊のごとく突っ立っていました(笑)!

 

 とてもぎこちなかったコミュニケーションも、1年経った頃には自然と会話ができるようになり、また冗談が言える余裕もでき、コミュニケーションが一番楽しいと思えるほどになっていました。

 

素敵なおばあちゃんとの出会い

 その頃、今井和子さん(仮名)という90歳のおばあさんが入院していました。1年前、外出先で転倒し、大腿部を骨折してしまい、手術をしましたが、歩くことや立つこともできなくなり、ベッド上での生活が続き、その後介護が必要となったため、介護病棟へ転院してきた方でした。

 

 今井さんは、少しぽっちゃりされていて、色白で、物腰の柔らかい優しいおばあちゃんでした。いつもにこにこされており、僕が上司や先輩に怒られてへこんでいる時は、真っ先に今井さんのところに行って、話を聞いてもらい、慰めてもらっていました(笑)!

 

 そんなとても優しい今井さんの趣味は、【読書】でした。元気な時は、ベッドの頭部分を上げて、【司馬遼太郎】の本を読んでいました。その姿はとても聡明で清楚な女性?に見えました。見えるというか、本当にそのままの素敵なおばあちゃんでした。

 

望まない胃瘻増設術

 しかし、90歳超えの高齢には勝てず、徐々に元気がなくなってゆき、食事もほとんど喉を通らなくなってきた頃、今後のことを息子夫婦とドクターで話し合っていた時のことです。僕はその会話をこそっと聞き耳を立てて聞いていました。

 

ざっくりこんな会話だったと思います。

 

ドクター:「経口からの栄養が入らなくなってきたので、胃瘻を作って胃に直接栄養を入れる方法を取りましょうか?」

 

息子さん:「いえ、本人とも話し合ったのですが、延命処置はしないでおこうと思います。自然に任せようと思います。」

 

ドクター:「点滴による延命も可能ですが、感染症のリスクが高くなるので、胃瘻をおすすめしますが・・・」

 

息子さん:「だから延命は望んでいません。本人も自然に逝くことを望んでいますし・・・」

 

ドクター:「このままの状態ですと、飢え死にしますよ本当にいいのですか?かわいそうですよ!

 

息子さん:「・・・・・・・・・・・では、先生にお任せいたします。」

 

こんな感じで胃瘻増設術に踏み切ったように思います。

 

七夕の願い事

 無事、胃瘻の手術が終わり、今井さんの食事は、経口からではなく、経管栄養による食事に変わりました。経管栄養に変わって1か月が経った頃、今まで以上に会話が少なくなり、表情も乏しくなりました。受け答えは出来るのですが、会話が続きません。また、身体全体にむくみができており、しんどそうで、一日中目を閉じたまま過ごすこと多くなっていました。

 

 そんな状況の中、7月に、毎年施設で行われている【七夕まつり】という催しがありました。患者さんに短冊に願い事を書いてもらい、笹に飾り付けをするという恒例の行事です。手が不自由な方など字が書けない方は、職員が代筆します。今井さんも寝たきりで字が書けなくなっていたので、大好きな今井さんのために、短冊を用意し、今井さんの病室へ向かいました

 

:「今井さん、もうすぐ七夕なんで、短冊に願い事を書くので、何か1つでもいいから、願い事教えて下さい!僕が代わりに書くから!」

 

今井さん:小さな細い声で「死にたい・・・」

 

:「・・・今井さん、それは無理やわ。書かれへんわ。すいません。その他に何か願い事ないかな?」

 

今井さん「殺して・・・」

 

:「・・・今井さん、それも無理やわ。やっぱり書かれへんわ。元気になるように、神様にお願いしようか?」

 

今井さん「いや、もう充分やわ。だから死にたい・・・」

 

:「(涙・・・) 今井さん、わかりました。早く天国へ行けますように!って書いてもいい?」

 

今井さん「(頭をこくり)・・・」

 

今井さんは、その数日後に、家族に見守られながら、天国にいかれました。

 

今頃、天国で、大好きな【司馬遼太郎】の本を読んでいるかもしれません。