やさしい介護学

12年間の介護職体験談を思いのままに綴ります。

身体拘束

      つなぎ服

 昼食介助が終わり、下膳を済ませ、口腔ケアの介助も終わって、ホッとひと息つこうかと思ったその時、先輩介護士があるものを発見し、急いで病室の中に入っていきました。何か大変なことが起こったに違いないと感じ、先輩の後を急いで追いかけて訪室すると、何やら先輩が患者さんに注意をしていました。

 

 よく観察してみると、ベッド柵に何やら掛けてあります。さらに注意深く見てみると、失禁後のおむつを干すようにしてベッド柵に掛けられている状態でした。その様子を発見した先輩が、どうやら患者さんに注意をしているようでした。

 

 先輩に詳しいことを聞くと、その患者さんは失禁すると自らおむつをはずし、ベッド柵に失禁後のべっとべとに濡れたおむつを干す習慣があるようでした。その時点で発見できればいいのですが、ベッド上でおむつをはずした状態で失禁行為をされたら、ベッド上に尿や便が流れて、大変なことになる、との説明を受けました。

 

 その方は認知症で、尿意や便意(トイレに行きたいという感覚)を感じる能力が低下しているものの、失禁後の不快感には敏感なようで、失禁後におむつを干すという行為を繰り返しているようでした。

 

 そこで施設側は、その患者さんに【つなぎ服】という一見すると囚人服のような変わった服を着させていました。背中側にチャックが付いており、着ている本人は、脱ぎにくい構造になっています。また、おむつ交換などができるように、足元にもチャックが付いていました。その患者さんは、つなぎ服を着ているものの、足元のチャックを器用な手さばきではずし、おむつをはずしたため、スタッフに注意されているのでした。

 

    両手抑制、ミトン、キーパーベルト

 その他にも、施設内には患者さんの自由を制限しているような行為が見受けられました。例えば、両手、または片手にミトン(大きな手袋)を付けた人や、両腕をひもで縛り、そのひもをベッドにくくり付け、両腕の自由を制限しているものや、車椅子から立ち上がれないように、専用のベルトを付けている方もいました。

 

 また、ベッドを柵で囲い込み、出入りしにくい状態にしたり、片方のベッドサイドを壁にくっ付け、もう片方に柵を設置して、制限しているものもありました。

 

      身体拘束の目的

 施設や病院など、利用者さんや患者さんにひも抑制帯、ミトン、ベルトなどの道具を使用して、ベッドや車椅子に縛ったり、制限を与えることを【身体拘束】と言います。また、ベッドを柵で囲い出入りをふさいだり、薬を飲ませて動けなくする行為も身体拘束となります。では、これらの行為は何のために行われているのでしょうか?大きく2点にまとめてみました。

 

 ①危険を回避するため

 第一の目的は、危険回避であると思います。立つことができない状態なのに、立とうとして、ベッドや車椅子から転落、転倒してしまって、骨折したり、最悪、頭部など打ち所が悪ければ死に至ることがあるため、ベッドを柵で囲い込んだり、車椅子にベルトを付けて縛ります。また、自傷行為(自殺を含む)や他人に危害を加える危険性がある時にも、使用することがあります。

 

 ②治療のため

 経管栄養を胃瘻や鼻腔から注入している時や、点滴をしているときに、自己抜去しないために、両手をひもで縛ったり、ミトンを装着します。その他、精神疾患のある方に、薬物療法で対応することもあります。

 

     身体拘束【ゼロ】は可能か?

 身体拘束をしたい人は、たぶんいません。しかし、拘束しないと患者さんや利用者さんの安全を守ることは難しいし、治療に影響を及ぼすこともあります。簡単には解決できないとても難しい問題ですが、拘束は原則禁止と言われています。

 

 身体拘束【ゼロ】の実現は可能でしょうか?現実的に考えると、介護スタッフの数は増えていますが、高齢者の数は増える一方で、介護スタッフ不足は今もなお続いている状況です。介護者の介護負担の軽減のためにも、身体拘束せざるを得ない状況が発生しているのが現実なのです。